つながりから新たな物語がはじまる logue(ローグ)Part.2

 上野原市の市街地、国道20号線から少し入った住宅地の一角、おしゃれなカフェと障害福祉サービスを組み合わせて運営している「logue(ローグ)」があります。カフェスペースがコミュニティ活動の拠点となり、上野原のまちでいろいろな物語が生まれています。今回その仕掛け人である井上真吾さんに、logueが行う取り組みに込められた思いを語っていただきました。前回はlogueをはじめる原点となったこと、そして活動から生まれたことを伺ってきました。今回はその続きになります。(前回の記事はコチラから)
(語り手:井上 真吾 さん 以下、井/聞き手:山梨県社協 矢巻 以下、矢)

矢 「みんなでつくる」を大事に取り組むことで、参加していく機会が増え、だんだんと自分の居場所になっていくんですね。その他はどんな活動をされているんですか?

井 いくつかの取り組みをやってるんですけど、ひとつにはパステルアートによる名刺づくりの活動があります。ワークショップに参加してくださった方の中に、パステルアートの先生がいて、名刺にその人のイメージしたものを描いたら面白いなぁと思って。その方に相談して、「配れない名刺づくり」というプロジェクトが始まりました。

【配れない名刺づくりとは】
上野原で働いている人から10枚プレーン(白地)の名刺をもらう。
事前にインタビューをして、その人から聞いた背景をイメージして10枚の名刺にパステルアートで色づけしながら表現をしていく。1枚はその人のキャッチコピーをメンバーと勝手に考えて、1枚プラスし11枚にして返すという取り組み。もったいなくて配れない!そんな名刺になればいいなと。

井 これもlogueで大事にしていることそのものなんですが、うちのメンバーと職場体験に来てくれたフリースクールの子どもたちが一緒に描いてくれたんです。彼ら、彼女らは学校に行くことができていないかもしれない。だけど、今ここで、社会参加ができているんですね。この名刺を渡したときに、「なんですかこの名刺?」ってなったとき、「logueっていう場所があってね、これを書いてくれた人たちはこれこれこういう活動をしていて…」って、そこからまた新しい物語が広がっていく。

矢 なるほど。そこからまた新しいつながりや物語が始まっていくということで
  すね。

井 そうです。インタビューのときからうちのメンバーや子どもたち、大学生に関わってもらうことで、ちょっとしたキャリア教育の意味合いもあるのかなと思っていて、地元でこんな想いを持って働いている人がいるんだとか、そういう出会いの接点になったらいいんじゃないかなと思っています。もはや障害福祉ではないですね。笑

矢 笑 その他にはどんなことをなさったんですか?

井 bookmark(ブックマーク)というプロジェクトの一環で、「ちづる」(赤崎正和監督 公式サイト https://chizuru-movie.com)という映画の上映会をしました。

「ちづる」の上映会を待つ人々
上野原障害当事者の親の会、赤崎監督、井上さん3者でのトークセッションの様子

井 ちづるは自分の妹さんを題材にした映画なんですが、僕が弟との関係性の中で考えていたこととすごく似たことが、ちづるちゃんと家族の風景の中にパッケージされていたんです。そこで、観た人がいろんなことを考えて、考えたことを言葉にして交換できる場所を作れたらと思って。なので、ただ映画を上映するだけじゃなくて、監督をお呼びして、撮影の背景を伺ったり、トークセッションで僕と監督に加え、上野原の障害当事者の親の会の方をゲストに迎え、「障害」や町の中にこういう場所があることの意味についてお話をし、来てくださった方と感想を述べ合いました。

 さらに、その翌年のbookmark♯2では、「ちづる」に加え「僕とオトウト」(高木佑透監督 公式サイト https://boku-to-otouto.com)という映画を同時上映し、両監督と、サプライズでお二人の師匠をお呼びしました。

 兄弟や家族の物語にフォーカスをあて、対話の場をつくるという趣旨に共感し、遠くは長野県から参加してくださった方もいます。その日は100人以上の方が来てくれました。小さいまちの中で考えていることが、すごく普遍的なものだったんだなぁと思い、とても嬉しかったです。

(当日の詳細はlogueのnoteから!https://note.com/logue00/n/n369da2c75637

矢 実際、地域の資源になり得るところはたくさんあるんだけれど、結局そこをオープンにしつつ、本来の事業+αをうまく混ぜ合わせられるような仕掛けのようものが増えてくると、もっとまちが面白くなっていく気がしますよね。

井 つながりとか、ふれあいとか、共生とかっていう言葉はすごく簡単なんですけど、それが生まれるまでのストーリーを想像しながら、取り組みを展開していくっていうことがポイントなんじゃないかなぁと思っています。背景を大事にするというか、今までつくってきた物語の中の延長線上の中で、どういうことができるかっていうか、ストーリーを一緒に語り合えるところがやっぱり根底にないと、難しかったりするのかもしれないですね。

 それをしようと思ったら、まずその人のことを知らないとできないんです。それってすごく大事なことですよね。コミュニケーションを取るということは、相手のことを想像すること、言語や身振り手振りの非言語でも同じで、一人では絶対に成立しないんです。そこを丁寧に根付かせていけるような活動をしていきたいと思っています。

矢 自分の好きや得意を発揮できるきっかけがないだけであって、そういう関わりが生まれる場所、承認してもらえる場所があることが大事ですよね。

井 「その人ってこんな顔があったんだ!」を一気に隠してしまうのがカテゴライズだと思うんですよね。障害とは〇〇だとか、男性とはこうあるべきだとか、上野原はこうだとか、カテゴライズすることによって、「わたし」が薄くなって見えなくなってしまう。だから、「一人の名前のあるあなたに戻る」場所が大切ですね。

 けんちゃん(弟)っていつしかハサミがすごく好きになって、人によってはそれをこだわりというのかもしれないですけど、たとえばポテトチップスの袋とかおしぼりの袋を開けるときに、必ずぴちっとハサミで切らないと気が済まないんです。普通のカフェだったら、目の前でおしぼりをハサミでカットし始めたらえっ!?て思うじゃないですか。笑

 でもそれがいいよね、それはけんちゃんらしいよねって、食事する前にちょっとクスっとなる。そうなったらいいなと思って。

おまつりローグ(室内イベント)
おまつりローグ(外の様子)

 先日もおまつりローグ(※地域の方々と企画したお祭り)を開いたときにテープを使う機会があって、本当は手でちぎれるんですけど、彼がハサミ好きっていうのを知っていた人が、あえて「ちょっとハサミ持ってきてここ切ってくれないかなぁ?」って頼んだんです。2秒でテープを切るのと、ハサミを探してきて2分ぐらいかけてカットするのとどちらの方に価値があるかって考えたら、おそらくテントを立てるという目的に沿うと前者なんですけど、場(活躍できるステージ)をつくるとなると圧倒的に後者なんですね。それを見た人がなんで?と疑問に思ったときに、「けんちゃん、ハサミがスゲー得意なんだよ!」ってことを、彼の物語として話すことによって、彼がハサミを使っているときに何やってるんだろう?とは思わず、「あー!これが好きなのね!」っていうふうに思うようになる。物語があることを理解することによって、その後の関わり方ってすごく変わってくるんです。

矢 待つことの価値や可能性みたいなものをすごく感じるお話ですね。関わりの余白が取れるからこそ、居心地の良さとか、相手を理解する上でカテゴライズせずに見れることにつながっているような気がしました。

これからの展望について

井 障害福祉サービス事業所なので、メンバー絶賛募集中です!笑
 メンバー同士の交流だったり、関係性の中で、気づかなかったことができるようになったり、そんなことが起きたらいいなと思うし、ここが今日お話ししたような場所であるということを知ってもらいたいです。だからとにかく一度logueに遊びに来て欲しいなと思っています。

 その他の抱負としては、小・中・高・大学生との関わりを益々大事にしていきたいと思っています。地元の大学生が関わってくれるようになったりとか、この通学路を利用している子どもたちやその保護者が後日来てくれたり、障害福祉っていうものを何か限られた障害のためのものじゃなくするために、いろいろな方と一緒に作り上げていきたいです。

 いろいろな児童・生徒・学生がいるので、ここに来てもらいたいし、なんか一緒に企画ができたら面白いなと思っています。たくさんの登場人物が増えてくるような、そういう場所をつくりたいですね。

 今自分は40歳で、60歳まであと20年くらいあって、子どもたちは20年後、大人になっていくわけじゃないですか。価値観がつくられていくその過程に一つの場所として関われることはすごく大きなことで、その未来の大人たちがどんな仕事をするにしても、家族をつくるにしても、その人の背景があるよねっていうことを大切にできるような人たちが、この上野原から増えていく。そこに携われたらいいなと思っています。

 これから大人になっていく子どもたちの原体験や原風景の中に、いろんな人によくしてもらった経験だったり、ああいう場所があったなぁっていうような根っこに残るようなものを残していけたらなと思っています。


 logue HP https://logue00.com/