つながりから新たな物語がはじまる logue(ローグ)Part.1

 上野原市の市街地、国道20号線から少し入った住宅地の一角、おしゃれなカフェと障害福祉サービスを組み合わせて運営している「logue(ローグ)」があります。カフェスペースがコミュニティ活動の拠点となり、上野原のまちでいろいろな物語が生まれています。今回その仕掛け人である井上真吾さんに、logueが行う取り組みに込められた思いを語っていただきました。
(語り手:井上 真吾 さん 以下、井/聞き手:山梨県社協 矢巻 以下、矢)

誰かと出会うことで、新しいことばが生まれてくる

矢 まずはじめにお伺いしたいのですが、logue(ローグ)という事業所名にはどういった意味が込められているのでしょうか?

井 logue(ローグ)って、何かと接続しないと意味をもたない接尾語で、その言葉単体では意味をもたないんです。プロローグとか、カタログとか、エピローグとか。こんなふうに言葉を生み出すためにつけるものなんですね。この考えが事業所名にも込められていて、誰かが決めた「こうあるべき」とか、「答え」じゃなくて、ローグに来てくれる人たちが、誰かと出会うことで新しく言葉が生まれてくる。一人ひとりの歴史や時間を大事にしたいと思って、logue(ローグ)という名前をつけました。

 新しい言葉が生まれるためにはローグというものが必要で、メンバー一人ひとりの生きてきたローグがあって、それと重なり合うことではじめて意味のある言葉や物語が生まれていく。物語は共有できるものなので、「障害者」というカテゴリーじゃなく、名前や歴史がある一人一人の物語を地元の人に知ってもらいたい。ここに来るいろいろな人たちと関わることで、言葉が生まれて、登場人物が増えていき、物語を一緒につくっていく。そんな場所になったらと思っています。

 そういった意味を込めてこのロゴもつくられていて、何かと何かが重なって意味が生まれる。文字もオリジナルの字体を使っていて、つながるその先を予感するイメージを表現しているんです。

矢 そうした思想が形になっている場所、空間だなぁと感じます。

入口や外のスペースにもlogue(接続)の思想がみられている

井 交わるということを意識して作っています。実はワークショップ形式で多くの人に関わってもらいながらこの場所をリノベーションしたんです。

外壁の木材を貼る作業
室内の床板も張り替えていきます

矢 はじまりからみんなで作り上げていった場所なんですね。ところで、どのような経緯から、上野原に立ち上げることになったんですか?

井 元々母親が上野原出身で、この地域に祖父・祖母が住んでいたんです。昔商店街を歩いたことをよく覚えていて、そうした日常の風景が記憶に残る場所でした。たまたま商店街の中にある物件を探していたときに、空き家バンクでこの物件とめぐり合って、祖父祖母との思い出のある地域でもあったため、ここにつくることにしました。

 また、僕の話をすると、弟が自閉症なんですね。小さい時から彼と関わっているので、僕にとっては当たり前、彼らしさだよねっていうことが、いざ学校のコミュニティに入ってみると、「一人で喋っていて、気持ち悪い奴」とか「怖い」とか「シンショー」とか、そんなことを言われたんです。その時、嫌な気持ちにもなったし、彼は彼なのに、なぜ「シンショー」とか「障害者」とくくられてしまうのかがわからない、っていうところが原点になっているんです。「障害とはこういうものだ」ではなくて、障害の前にけんちゃん(弟)という名前のある一人の人なんだよ、ということを伝えていけるようなことをやりたくて。

 上野原は小学校から大学まで揃っているので、そういうことに取り組む環境を作れる可能性を感じたことも一つですね。

矢 「接点がつくれていない」ということが、様々な難しさをつくっているんじゃないかなぁと思うんです。自然な形で、何か全然違う目的で、混ざりあっていく、そういう場所が大切ですよね。

井 logueがここにある理由にもなってくるんでしょうけど、いろんな人が集える場所というか「障害」や「福祉」というものを第一の目的としないというのがポイントですね。

 いろんな理由で、いろんな接続ができる接地面を増やすことで、いろんな人と、この場所が作られていく。

 障害ってなんだろう?っていう原風景から考え続けているけど、いまだに僕は答えを持ってない。なので、いろんな人たちとの問いかけが生まれる場所になったらいいなぁと思っています。

矢 一人一人が言葉を持っているということですね。

井 それがまさに「登場人物が増えていく」ということです。

 ここは物語が生まれる場所、ゴールではなく、ここから生まれると考えています。若い時は必死になって答えを探してきたけれど、そんなものはないということを歳を重ねていく中で思ったんです。そんなことより関わってくれる人に、カテゴライズ(属性にあてはめる)されない、いろんな人との関わりが生まれるものが必要なんじゃないかという考えにシフトしていきました。僕の周りにいる人たちが、つながりから生まれるものがあるというヒントをたくさんくれました。

 小学生の子どもたちとか、将来カフェを自分でやってみたいという人たちが、リノベーションのワークショップをきっかけに、logueに遊びに来てくれるようになって、やがてそれぞれの居場所になって、今度こんなことやりたいんだよねって持ち込みの企画が生まれるようになりました。

 子どもの居場所づくりをやってる方が、たまたまワークショップに参加したことをきっかけに、今までは公民館でやってたけれど、logueでやろうという流れになって、logueのメンバーと子どもたちが一緒に絵を書いたり工作に取り組んだりして、メンバーの新しい一面も見られました。関わってくれる人が増えることで、決められた活動じゃなく、みんなで活動をつくるのが楽しいですね。

 これ、常連さんがつくってくれたおもちゃなんですけど、いつもコーヒーを飲みに来られていた方が「こんなの作ってみたんだけど」と持ってきてくれて、いまもあれやこれや工夫しながら製作を続けてくれています。コーヒーを飲む場所から参加する場に変わっていく。ここがなかったら起こっていない現象かもしれないなと思っています。

第2回へ続く