上野原市における生活支援体制整備事業の取り組み(前編)-うえのはら講習会訪問レポート!-
上野原市は、平成28年度から高齢者が安心して暮らし続けられる地域を作っていく「生活支援体制整備事業」を上野原市社会福祉協議会に委託。さらに、令和6年度から同市西原地区のNPO法人にも委託し、市社協生活支援コーディネーター(以下、「SC」)2人とNPO法人のSC1人が、市内9地区の支えあい活動をサポートしています。
上野原市社協は、地区を超えた交流と学びを目的とした「うえのはら講習会」を定期的に開催。平成27年度から取り組み、10年目を迎えた南アルプス市における「生活支援体制整備事業」を学びました。
前編は、講習会の内容をレポートするとともに、後編は現在、上野原市内で支えあい活動に取り組んでいる「うえのはら支え愛の会 新一(しんいち)アシスト会」の作田順子さん、古根村明さん(新一区長)、「とんびの会」の土門淑恵さん、同市社協SCの溝呂木潤さん、花上佳範さんへのインタビューをお伝えします。
うえのはら講習会「南アルプス市における現状と活動について」
<斉藤さんのお話>
生活支援体制整備事業による協議体立ち上げの背景には、「人口減少・少子高齢化による生活を支える担い手の減少」と「公的サポートだけでは対応できない様々な生活ニーズの増加」が挙げられています。
そうした状況であっても、住み慣れた地域で安心して暮らし続けるために、自助・共助・互助・公助を包括的に組み合わせた「地域包括ケアシステム」の構築に向けて、住民自らが考え、実践できる生活支援(支えあい活動)や介護予防につながる場の充実を図るため、「生活支援体制整備事業」における協議体づくりが始まりました。
「どんなことから始めれば良いんだろう…」と悩みましたが、「まずは地域に出てみよう!」と、地域の高齢者の声を聴くことから始めました。地域をまわるなかで「これからも我が家で自分らしく暮らしたい」と話される方が大勢いました。体が衰え、徐々にいままでできていたことが難しくなっていく中でも、公的サービスを活用し、今までと同じように地域住民同士が支えあいながら暮らしていきたいという住民のニーズを改めて知ることになりました。
はじめは「協議体」というもののイメージを明確に持てずにいましたが、こうした住民の想いを実現するため、支えあう地域をつくっていくには「協議体」が必要だと理解しました。
けれども、SCだけが協議体を理解しているだけでは、意味がありません。
そこで、行政と社協とSCの三者で、どんな地域づくりをどのように目指すのか、年8回にわたる会議を開催し、意識の統一や方針の共有を図りました。
これまでやってきたことと何が違うのか、本当の意味の住民主体とは何か、そのために私たちはどんな役割を果たすべきなのかなど、様々なことを話し合いながら取り組み方針を固めていきました。
そして「本当の住民主体の地域づくり」には、次のような関わりが大切であるとまとまりました。
住民 | ・自分の暮らす地域に関心を持つ ⇒みんなで話し合う ・地域の課題に気づく それは自分事だと気づく ⇒想像と共感 ・自分たちの力でできることがあると気づく ⇒活動が生まれる 誰かのために何かができる喜びにつながる |
⇅ 社会福祉協議会/生活支援コーディネーター(両者のコーディネーション、働きかけ)
行政 | ・情報提供 ⇒地域の課題を住民が知れるようサポート ・住民を信じて待つ ⇒期限や枠にはめない 住民が協議して決めていけるよう働きかける ・住民が動き出したら全力で応援 ⇒住民の力が発揮できるようサポート ・信頼 ⇒行政が住民の力を信じる 市と住民の関係を近くする |
併せて、「協議体活動に自ら参加すると手を挙げてくださる住民の方々を中心に進めていこう」という方針を決めました。
平成28年8月、「第1回地域フォーラム」を開催。参加者180名の内、手を挙げてくださった59名の方々と勉強会を重ねて、12月に第1層協議体を立ち上げました。
その後は、第2層協議体を15小学校圏域(当時)毎に立ち上げるため、住民説明会を行ったのですが、地域の役をやっているから参加したという方がほとんどで、自分の意志で参加してくださった方は少数でした。「金がないから、住民に自分たちで何とかしろってことなのか!」といった厳しい声もたくさんありましたが、どこの地区にも必ず理解を示してくださる住民がいました。第1層と同じように、自ら参加すると手を挙げてくださった住民を中心に勉強会を重ねて2年半、令和元年には全16地区に第2層協議体を立ち上げることができました。
ところが、具体的な活動策が出てきません。その理由を探ると、小学校圏域ではまだまだ範囲が広いという課題が見えてきました。「もっと身近な地域で話がしたい」という住民の声を受け、自治会圏域の第3層協議体の取り組みが始まりました。
ある地区の第3層協議体が「ご主人が亡くなってから草木で家の周りが荒れている住民がいる」「何か困っていることがあるかもしれない」と話し合い、社協に相談をしてくれました。
後日、社協のコミュニティソーシャルワーカー(以下、CSW)が訪問し、お話を伺うと、
いろいろな困りごとを抱えていることが見えてきました。協議体メンバーとCSWが一緒に訪問するようになり、近隣の方が草木の伐採やお墓参りの送迎などをサポートしました。
こうした「住民が変化に気づき → 関係者につなぎ → 住民も一緒になってサポートできることを考え・実践する」というサイクルが生まれ、現在は59か所の第3層協議体が、買い物ツアー、外出支援、男性の居場所づくり、ゴミ出し支援など、それぞれの地域ならではの活動が展開されています。
協議体メンバーである住民の方々も主体的に関わり、実践していくなかで、自分たちの活動が少しずつ地域に認められていく喜びと、自分自身が地域とつながっていることを感じるようになったと言います。
さらに、活動を続けているシニア世代の背中を次の世代も見ていて、地元消防団メンバーやOBが中心となり、高齢者宅等の植木の伐採、環境整備などを支援する「MAGONOTE」が立ち上がるなど、協議体活動を応援する活動も生まれています。
今後の課題は、次の世代にどのようにバトンを渡すか。「できる人が できることを できる時に」をキーワードに、地域の中で取り組む姿を見せていくことで、世代を超えた支えあいの輪を広げていきたいと思います。
<河野さんのお話>
南アルプス市では、協議体活動を行政・社協・SCが協力してサポートしていくため、月1回の運営意見交換会を開催。サポートするうえでの悩みや協議体が抱えている課題、成果や課題などを話し合い、サポートの方向性を再確認しています。
また、半期毎に開催している第2協議体の代表と副代表による意見交換会は、日頃混じていることや悩みなどを共有することで今後の活動の参考の場であり、第2層では解決できない課題をまとめて第1層協議体に提言する機能を持っています。
個人情報の取り扱いを会則などの文書で作成していませんが、協議体の定例会でルールを決めています。
その際、(1)お互いの同意の確認
(2)得た情報をどこまで発信するか
(3)誰がどこまで支援するか
(4)得た情報の管理 など
ポイントを押さえてもらい、それぞれの活動に会った形で検討しています。行政や社協から「こうしてください」ではなく、住民が協議して「こうしよう」と決めることが大事なことの一つかもしれません。
社協では、サロンや老人クラブ、自治会、企業、協議体などで、実際に市内で起きた福祉の問題を住民の方とともに考える「コミュニティソーシャルワーカー発信ふくし勉強会」を開催しています。実際の例から学ぶことで、他人事ではなく、いつか自分にも起こり得ることだと共感してもらえるようなアプローチを継続しています。勉強会によって住民の意識が変わったり、私たちの取り組みへの理解が広がったことで、さまざまな住民主体の活動が生まれています。
協議体活動のポイントは、住民が役割や成果を感じられ、楽しいと思える活動です。今後も「できる人が できることを できる時に」をキーワードに、活動を広げていきたいと思います。
うえのはら講習会を終えて
上野原市の協議体参加者からは
・第1層から3層までそれぞれの役割りが明確で、市や社協のサポートがあるなど、連携の形がしっかり見えている。上野原市でもそうした体制が見えると良い
・協議体だけでなく、消防団や婦人会など、地域の集まりや団体とのつながりが生かされている。そういったところとの関わりも考えていきたい
・市と社協の連携を深めていってもらい、より活動をサポートして欲しい
など、これからの課題とともに前向きな意見が挙げられていました。
会の終わりには、市・社協・生活支援コーディネーターに向けて、住民の方から「頑張れ!」と拍手とエールが送られました。
協議体の活動は一朝一夕に実現できるものではありません。じっくりと時間をかけて住民と向き合い、伝え、ともに考えていくプロセスをつうじてはじめて形になっていくものであり、悩みながらも一歩一歩、ともに歩みを進めていっていることを感じた講習会となりました。
後編につづく
Written by コミュニティ再生推進室